| 和紙の歴史 | 和紙の種類・洋紙との違い | 製作工程 |
紙の起源について、現在では紀元前2世紀頃に中国西安近郊で漉かれたのではないかと言われており、その後蔡倫により製紙法が確立され(105年)、わが国には610年高句麗の僧曇徴によってもたらされたとされています。当時は非常に貴重な品物であり技術でしたが、伝播したばかりの紙は強度・耐久性などが低く、より良い紙を作るために品質の改良が繰り返され、楮(こうぞ)、雁皮(がんぴ)などを原料とし、流し漉きの技法も加わった良質の紙、和紙に進化していきました。当初は写経用や戸籍用に用いられ、平安朝になり貴族階級での使用が増え、室町時代には建築にも取り入れられてきました。江戸時代に入ると生産量が大幅に増加、庶民の生活にも溶け込んでいくようになります。この頃には障子紙や傘など様々な生活用品に形を変え、使われていました。
因州和紙の起源は定かではありませんが凡そ奈良時代まで遡ることができ(正倉院文書)、平安時代の延喜式には因幡の国から朝廷に紙が献上されたという記録があります。江戸時代には因州和紙は藩の御用紙としても庶民使う紙としても盛んに生産され、また移出もされ、紙座で取引されました。
明治期に導入された木材パルプを利用した製紙法による紙、いわゆる洋紙の生産が徐々に増え大正末期には和紙は追い抜かれてしまいました。安価で大量生産が可能な洋紙は現代でも多くの場面で使われています。ただ和紙にしか出せない質感や品質もあり、今も様々な形で生活に関わっており、伝統を受け継ぎながら現代の生活に役立つ和紙製品なども生まれてきています。
和紙には様々な名称が付けられています。和紙の種類は主に「産地」「原料」 「用途」などにより分類されます。例えば原料で分類すると以下の様なものがあります。
- 主要な和紙原料である楮(こうぞ)でつくられた和紙です。紙の表面はややラフな質感があり、繊維は太くて長く丈夫です。障子紙・絵画など多くの用途で用いられます。楮を原料とする和紙の産地は全国にあり最もポピュラーな和紙です。
- 古くからの和紙原料である雁皮(がんぴ)でつくられた和紙です。雁皮紙は防虫機能があり耐久性もあるため、日本画・写経用紙・襖用紙・修復用紙などに用いられます。繊維が最も細くて短く、滑らかな表面で独特の光沢があります。
- 和紙原料の一つである三椏で作られた和紙で、比較的新しく近世から用いられたようです。繊細で滑らか、さらに弾力と柔らかな艶があり、書画用や襖紙・登記用紙・エッチングなどに用いられてきました。現在の日本の高額紙幣には三椏が使われています。
紙を「和紙」と「洋紙」に区別するようになったのは意外と新しく、明治時代に入ってからだと言われています。それまでも「唐紙」との区別はありました。明治初期に導入された木材パルプを原料とする大規模な機械漉きで作られた紙を「洋紙」、楮や三椏を用い手漉きで作られた紙を「和紙」と区別することもありますが、現在では機械漉きによる和紙、流動式による半自動手漉き、立体漉き和紙もあり、厳密な区分は困難です。
一般に原材料の違い(靱皮繊維と木材パルプ繊維)、繊維の長短、ネリ(粘剤)の使用の有無によって区別するのが妥当だと思われます。品質的な違いとしては和紙は比較的、「紙力が強い」「通気性が高い」「透明度が高い」等の特徴があります。
和紙はとても時間と手のかかる作業を経て出来上がりますが、昔も今も基本的な工程は変わることなく作られています。
ここでは昔ながらの和紙製法をご紹介致します。
- 1. 剥く
- 図のごとく手にもち皮をむきとるなり
中の真木たきゞの外用立なし - 2. 削る
- 黒皮をすごき捨るなり
図のごとく庖丁にておさへ前へ引く黒皮悉く去りすつる也
黒皮ちり紙漉に用ゆこれをさる皮と唱ふ
是を川にて能洗ひ釜へ入煮る
其後くさらかし能たたきとろゝを入て漉也
楮芋少き年は桑の木を製す
楮芋のごとし桑の葉もすきこむなり - 3. 煮る
- 右のごとく製せしを釜の中へ入
かくのごとき棒二本こしらへ立る根本は楮芋にて留る也
その上へ蕎麦温飩などをゆでるごとく画図の趣に追々入一時に煮也
煮汁はそばがらを焼比灰のあくを取り煮也
にるにしたがひ二本の棒にて芋あらふごとくかき廻しかき廻し数遍すべし
其の後くだんの棒を引ぬく也
其穴より湯まわりよくにゆると知るべし
とかく片煮のせぬやうに用意する事肝要也
自然煮といへども熱ぬ事有
其時蝋灰一升程入る
早速熱るとしるべし
蝋灰なきときは石灰にてもよし
灰を加へしハ紙漉立し後紙少しく赤みさすなり - 4. 擲く(たたく)
- 明日紙を漉んと思ふとき前夜にそゝりをあらひ
翌朝よりたゝくに朝飯しかけ置きにへる間たゝけばよし
冬紙はとろゝばかり入てたゝくなり
春紙にはのりを入るゝもあり
左なくては漉がたし
此音遠くきこへていとど物さびしき山家身にしみじみと哀也 - 5.漉く
- 杉原などはけた重く男の職也半紙は女漉なり
すかんと思ふほどたゝきかため桶の中へ入
置し玉をかぎとりとろゝをすいのうにてこしませ
けたを持て数へんまぜあハせ
ゴフリゴフリと云ねばり少ければとろゝをます至てかげん物也
竹を以てかきまぜ引上見れば海苔のごとしかげんしるゝ也
竹にかゝらざるほどにこなるゝをよしとす
とかくとくとくまぜるほどよし - 6.干す
- 壱間板に表へ五まい裏五枚図のごとし紙一方少厚し
其方へはじめ図のごとき竹を以てまき取
右の手にしべぼうきを持てなで付る也
上手入べし心得あり
日よりなれバ早くかわくなり
雨天なれば火にかけかハかする事あり
一人漉板四十枚程用意有べし
板へはりし方紙のおもてなり
此板を床といふ
(国東治兵衛著 「紙漉重宝記」 1798年刊)